はじめに
ずいぶん時間が経ってしまいましたが、日本経済新聞にて「新興市場のM&Aが過去最高水準」というニュースが報じられました。2025年のM&A金額は約7500億円、前年比6割増という数字のインパクトからも、各所で話題となりました。(弊社でも、大変話題になりました。)
出典:「日本M&A市場の最新動向 ~2025年の総括|フーリハン・ローキー株式会社 」
私自身、上場企業のM&A実務に携わる立場として、M&A件数の増加は、根本的なフェーズの変化を表していると感じています。そこで今回は、本ニュースを参照しながら、M&A市場で起きているフェーズの変化とその背景、さらには今後予想される展開について、実務家の視点から考えてみたいと思います。
根本的な「フェーズの変化」
「2025年のM&A金額は約7500億円、前年比6割増」という数字の内訳を見ると、トライアルHDによる西友の店舗買収といった超大型案件が大きく影響しています。この点は、数字のインパクトに惑わされずに冷静に見極める必要があります。ただし、この特殊要因を差し引いても、市場の局面が変わったという実感は拭えません。
その理由は、バイサイドの動きだけでなく、セルサイドにおいてもSOMPOによる農業総合研究所への出資や、アクセンチュアによるアイデミーの買収など、多様な展開が続いている点にあります。また、フーリハン・ローキー社の調査においても、「2025年のM&A市場の活性化要因は一過性のものではなく、中長期的な変化の始まりである」と総括されています。
これらを踏まえると、かつては一部の資金力のある企業や、成長局面にある企業のみが活用する「飛び道具」であったM&Aが、今やあらゆるグロース企業にとっての「生存戦略」へと、その位置づけを完全に変えていると言えます。これは、日々M&Aの現場で経営層やCFOの方々と対話している私の肌感覚とも強く合致しています。
最大の要因としての「グロース100億問題」
なぜ、これほどまでにM&Aが加速しているのか。事業承継やスタートアップを取り巻く資金調達環境の変化など、理由は多岐にわたりますが、最大の要因は東証再編に伴う「グロース100億問題」にあると考えています。
この問題については、当社としても非常に強い関心を持っており、上場維持基準の見直しがもたらす影響と実践的な対応策をまとめたホワイトペーパーを作成しています 。
▼「上場維持基準の見直しがもたらす影響と実践的な対応策」についてはこちらをご参照ください。(25年7月時点のものですので、もし御ニーズがあるようであればその後の細かな変更等も反映したものを作成しようと思います)
また、NewsPicks社も詳細なレポートを公開しています。執筆者の平川さんは、日本のスタートアップ事情に精通した信頼できる友人でもあります。未読の方は、ぜひ一読されることをお勧めします。
▼「NewsPicks社のレポート」についてはこちらをご参照ください。
本レポートでは、グロース市場に上場する500余社のうち、約7割にあたる約400社が新基準に届かないと推計されています。新基準では、上場後5年以内に時価総額100億円を満たすことが要求されており、既上場企業も2030年までにこの基準を適用されます。(個人的な意見としては本当に5年という猶予期間の設定が適切だったのかは発表当時から疑問が残るところです。7年などでもよかったのではないかと考えてしまいます。)
また、時価総額が100億円を下回る状態が続くと、国内外の機関投資家による投資対象からも外れるほか、証券会社のアナリストカバレッジから外れる要因にもなります。自社事業のオーガニックな成長だけで、短期間にこの厚い壁を突破し、再び市場で適切な評価を受ける状態に戻るには、あまりにも時間が足りない。こうした切実な危機感こそが、M&Aを「生存戦略」へと押し上げていると言えるでしょう。
M&A実行力による「三極化」
M&Aが経営における日常的な選択肢となる中で、今後は各社の「M&A実行力」の差によって、企業は以下の3つのタイプに分かれていくと考えています。
推進・拡大タイプ
明確な成長戦略に基づき、M&Aをテコに非連続な成長を実現していく会社です。社内に「Corporate Development」のようなM&A推進部門を設立するなど、M&A機能を内製化し、案件の発掘からPMIまでを、再現性のある形に落とし込んでいます。
▼「Corporate Development」についてはこちらをご参照ください。
リソース不足・停滞タイプ
成長意欲はあるものの、日々の業務に追われて具体的な検討が進まず、結果として「100億円の壁」を超えられない会社です。特にグロース企業の多くでは、CFOが資金調達や決算対応に忙殺され、M&Aや投資に割けるリソースが慢性的に不足する傾向にあります。意欲はあっても実行が伴わず、市場環境の変化に取り残されるリスクを抱えています。
消化不良・減損タイプ
実務上の懸念が最も大きいのがこのタイプです。十分な体制が整わないまま買収を強行し、PMIでトラブルが絶えず発生してしまうパターンです。PMIが適切に進まなければ、期待していたシナジーが得られないだけでなく、最終的には減損処理を余儀なくされます。M&Aは、買収するだけであれば、売主の提示する金額を受け入れるだけで済むため容易です。しかし、PMIまで含めて適切に推進できなければ、M&Aという手段は銀の弾丸にはなり得ないのです。
M&A推進の構造的な課題
先ほど挙げた負のパターンに陥ってしまう背景には、日本のM&A市場が抱える構造的な課題が関係しています。
M&A推進人材の不在
一つ目の課題は、M&Aを推進できる専門人材が圧倒的に不足していることです。
上場企業としてステークホルダーへの説明責任を果たし、精緻な検討を尽くした上で「失敗しないM&A」を行うには、対象事業の市場分析や自社の見立てを精緻に反映したプロジェクションの作成、バリュエーション、ストラクチャー検討など膨大な工数と専門性が求められます。
しかし、こうした要件を満たす人材はすでに自社の出世頭として囲い込まれているか、あるいは給与水準の高いコンサルやPEファンドなど、プロファームへ流出してしまいます。仮に、転職市場に出てきたとしても各社で奪い合いになります。一方で、転職市場によく現れるのは、M&Aのプロセスを部分的にしか知らないことが少なくありません。
多くの事業会社にとって、「M&A人材を自社で雇用する」という選択肢自体が、構造的に成立していない可能性が高いと考えます。
▼M&Aの構造的な課題についてはこちらをご参照ください。
M&A推進パートナーの不在
そして二つ目の課題がM&A推進における外部パートナーの不在です。
自社での採用や組織化が困難な場合、頼るべきは外部リソースとなりますが、事業会社としてこなすべき泥臭い社内調整なども含むM&A実務の推進そのものを支援する外部パートナーはほとんど存在しません。一般的にM&A仲介、FAは案件成約に向けた交渉等をサポートする立場であり、コンサルファームは戦略策定を主眼としています。本当に人手が必要な”中の仕事”まで踏み込むプレイヤーは多くありません。
現場と経営、両者の視点を持ち合わせながら、社内調整だけでなく弁護士、監査法人との仲介役までを担うディールマネージャーとしてプロジェクトを完遂させてくれる外部パートナーは、この業界には存在していませんでした。
「M&A推進」を担う存在として
こうした「人」と「機能」の不在を解消するために、ノーチラス・キャピタルは存在しています。(私が事業会社で経験した、生々しいM&Aの現場経験がサービスの原点にあります。)
▼創業ストーリーについてはこちらを参照ください。
私たちは、第三者としてではなく、“中の人を超える中の人”として、日々変化するM&Aに係る状況への臨機応変な対応を可能とするM&A実務のハンズオン支援を提供しています。
クライアント企業のドメインのメールアドレスを頂き、Slack/Teamsに入り、社内の一員として深く内部に入り込み、“中の人を超える中の人”として、M&Aを推進します。また、戦略策定からPMIまで、範囲を限定しないスコープレスな契約により、日々変化するM&Aに係る状況への臨機応変な対応を可能としています。
採用難易度の高い専門人材を固定費リスクなく確保し、採用・育成のリードタイムを待つことなく、最短翌日から即戦力のM&A推進体制を実装できるのが、「レンタルM&A室」の特徴です。
▼サービスについてはこちらを参照ください。
大手プロファームがカバーしておらず、買い手担当者にとって最も苦慮する「実行領域」を支援する存在として機能しています。(M&A仲介と事業会社での投資担当という、売り手側と買い手側の双方を経験してきたことが、支援領域の網羅性につながっています)
おわりに
今回のニュースの背景にある、東証による上場維持基準の見直しという構造的な変化は、避けることのできない現実として目の前に迫っています 。2030年までの猶予期限があるとはいえ、オーガニックな成長だけで時価総額100億円という厚い壁を突破するには、残された時間は決して多くありません 。
こうした市場の変化に取り残されないためには、自社のM&A実行リソースを冷徹に見極め、早期に対策を講じることが不可欠になります。そして、M&Aの成否は、組織の統合という修羅場を乗り越え、M&Aを完遂できる実行力の有無によって決まっていくことになるでしょう。
私たちが提供する「レンタルM&A室」という機能が、グロース市場で挑戦を続ける経営者やCFOの皆様にとって、100億円の壁を突破するための確かな一助となれば幸いです。